2022年 06月 19日
母が亡くなるまで~息を引き取る瞬間
人の死に目に合う可能性のある職業以外では、なかなかないのではないだろうか?
母が亡くなったとき、私は母の傍らにいた。
病院のERの片隅にある区切られた部屋の壁に立って、母を見守っていた。
母は肺炎が悪化し血中の酸素濃度がみるみる下がり救急車で病院のERに運ばれた。
そうして私は家族との申し合わせに従い、延命措置を断り、後から駆け付けた家族とともに、母が呼吸に苦しむ姿を、死が訪れる瞬間を見守った。
「見守るしかない」
その時そう思いたいけれど、ひとり診察室で医師に延命治療をしないことを伝えた私は、
「母を見殺しにするんだ、私が決めたんだ」
という言葉が色濃く浮かびあがり、
呼吸に苦しむ母の辛さを見守らなければならない罰に堪えなければならない気がしていた。
「母を見殺しにするんだ、私が決めたんだ」
それは私の思い込みだと信じたい。
でも実際は、、、
そんな思いが頭をグルグルする。
そういう思いが浮かぶなか、また別の思いが浮かび上がった。
これは母との約束だった
生まれる前から決まっていたことだ
約束を守るために母をしっかり見ておくんだ
母と私は対等なんだ
その姿から目をそらしてはならない
最後の家族が駆け付け、家族全員が母に感謝の言葉をかける。
母は目を大きく開け、息苦しさに堪えながら、何か喋った。
誰も聞き取れなかった。
そうして、母が目を閉じると、酸素濃度も脈拍もどんどん落ちていった。
ドラマや映画で見るようなあの瞬間がやってきた。
それまで10分弱。
家族全員が覚悟していたその時は突然やってきた。
母は旅立った。
寂しい。
涙があふれた。
静かに泣いた。
ハンカチで涙をぬぐいながら、死亡宣告を受けた。
感情が大きく動くこともなく、淡々と、じわじわと。
母は亡くなったのだ。
その事実をすっと受け入れる感覚。
長い間病気を患った母へ、労いと感謝の気持ちがあふれた。
今まで長い間、お疲れさま!
ありがとう!お母さん!
ただただそれだけだった。
母も家族も私も、精一杯がんばったと感じた。
by shikoponkkr
| 2022-06-19 23:48